2021年12月のニュースで、精子取引のトラブルが取り上げられ話題になりました。不妊治療などで、精子の需要が高まっています。しかし、SNSなどで個人間で取引されることも多く、トラブルが多数発生しています。
そもそも精子取引は日本で公式に認められているのでしょうか。
実際に費用はどれくらいかかるのでしょうか。また、どのようなトラブルがあるのでしょうか。安全に行う方法はあるのでしょうか?
調べてみましたので、順番に見ていきましょう。
精子取引は日本で認められているのか?
日本では精子売買は法律で禁止されている?
2009年の改正臓器移植法において、「臓器売買は禁止する」と記載されており、臓器提供の対価として報酬を要求したり得たりした場合には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。
精子は臓器の一部と認めると、改正臓器移植法を根拠に、精子売買で報酬を得た場合は罰則が科されます。
現在は、日本での精子売買は禁止されているようです。
ただ、精子提供をして、実費分として謝礼を受け取ることは一般的に行われており、グレーゾーンであるのが現実です。
法律ではないですが、日本産科婦人科学会の会告が、事実上の規範となっているようです。また、厚労省の文書でも商業目的の精子売買は禁止する、と明言されています。
精子提供は営利目的で行われるべきものではなく,営利目的での精子提供の斡旋若しくは関与又は類似行為をしてはならない
日本産科婦人科学会会告「非配偶者間人工授精に関する見解」(平成18年 4 月改訂)
精子・卵子・胚の提供をめぐる商業主義的行為を防止する
提供にかかる実費相当分及び医療費を除き,精子・卵子・胚の提供に関する対価の授受を禁止
厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助 医療制度の整備に関する報告書」(厚生科学審 議会生殖補助医療部会 2003: 10)
一方海外では、禁止されている国もありますが、アメリカなどでははっきりと許可されています。
実際に行われている精子提供による妊娠「AID(非配偶者間人工授精)」
不妊治療の一環で、AID(非配偶者間人工授精)というものがあります。
男性が無精子症などで、その妻が妊娠できない場合、第3者から精子提供を受けて妊娠する方法がAIDです。AIDは体外受精は認められていませんが、人工受精であればOKとされています。
このAIDを行う全国の施設で、精子提供が1万〜3万円程度の謝礼で行われてきた経緯があります。大学病院で、学生がアルバイトで精子提供を行う例がよく知られています。
AIDは、日本では1948年に初めて慶應義塾大学病院で行われました(慶應は2018年に中止した)。以来約70年で、国内でAIDで生まれた子供は推計1万〜2万人と言われています。正確な数は、国や日本産婦人科学会でも把握できていないようです。
1996年ころからは、インターネットを使用して、営利目的の精子売買が行われるようになったと言います。
2021年4月に、国内初の民間精子バンク「株式会社みらい生命研究所(埼玉県越谷市)」が設立されました。これは、男性不妊の研究を約40年続ける独協医大の医師が設立し、第三者のボランティアによる精子を不妊治療として人工授精(AID)を希望するカップルに医療機関を通じて提供しています。
2021年7月の時点で、日本産科婦人科学会は「非配偶者間人工授精(DI)」を国内12登録施設でのみ実施することを認めています。
しかし、SNSを使用して個人間で精子取引する例があとをたちません。
AIDでは父親は誰になる?
夫婦で同意をしてAIDを行なった場合は、子供はその夫婦の子として認識されます。
そのような法律が、2020年に制定されました。
第三章 生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例(他人の卵子を用いた生殖補助医療により出生した子の母)
令和二年法律第七十六号
第九条 女性が自己以外の女性の卵子(その卵子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産をした女性をその子の母とする。(他人の精子を用いる生殖補助医療に同意をした夫による嫡出の否認の禁止)
第十条 妻が、夫の同意を得て、夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、夫は、民法第七百七十四条の規定にかかわらず、その子が嫡出であることを否認することができない。
生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律
ただ、生まれてきた子供にとっては、「遺伝子的な親が誰か」という問題はとても切実なものでしょう。
「出自を知る権利」、つまり遺伝的ルーツ(精子提供者)を知る権利は、「子どもの権利条約」でも謳われています。
「児童はできる限りその父母を知り、且つその父母によって養育される権利を有する」
「子どもの権利条約」(第7条)
けれども、実際には、AIDや養子縁組でも「子供に知らせない方がいい」という考えも残っており、日本産婦人科学会でも告知を義務とせず、国でも告知するように促す法律など現時点ではありません。
提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とする(ただし記録は保存)
日本産科婦人科学会
トラブルが相次いでいる
精子提供について、法的規制が行われていないのが現状です。
SNSでの個人間での精子提供は、優秀な精子をもらえたと思ったら経歴の詐称があったり、エイズ・梅毒・肝炎などの感染症の危険があったり、遺伝子疾患を持った精子であったり、ストーカーや性犯罪につながるケースがあったりと、トラブルが多く報告されています。
精子提供を受けるのにかかる費用は?
このように、精子売買は日本で基本的には禁止されています。
ただ、医療機関を受診することで、民間の精子バンクから、不妊治療のために精子提供を受けることができます。
日本国内の民間精子バンク「株式会社みらい生命研究所(埼玉県越谷市)」からの精子提供を受ける場合は、不妊夫婦が治療費とともに1件あたり15万円程度を医療機関に支払うこととなっています。
デンマークの世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」を利用して、精子提供を受ける方法もあります。こちらの費用は総額50万程度と言われています。
海外の精子バンクはどのようなものがある?
精子売買が盛んに行われるアメリカでは、150ほどの精子バンクがあると言われています。
精子提供者リストには、身長、体重、肌の色などから学歴、宗教、趣味などの情報が記載されています。
費用は授精1回分で100-200ドル(1万〜2万円)程度です。
優秀な遺伝子を集めたノーベル・バンク
以前、カリフォルニア州に「ノーベル・バンク」という名の精子バンクがありました。提供者のほとんどが科学者で、知能指数が130以上の男性から提供された精子を扱っていました。
精子の値段は3000ドル(約33万円)。16年間で223人の子供が生まれたと言われています。
「ノーベル・バンク」は1999年に閉鎖しています。
この精子バンクの精子で独身のまま子供を産んだ女性がいました。生まれた子供の知能指数は180-200と言われており、2歳半でコンピューターを組み立て、6歳でハムレットを読んだといいます。
さいごに
今回は、精子取引について調べてみました。
不妊治療として安全に行える環境をこれから作っていく必要がありますね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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